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過失相殺

1. 過失相殺とはなにか

交通事故は、加害者が賠償責任を負うものですが、被害者にも何らかの落ち度があって、損害が発生、拡大したという場合があります。そのような場合、公平の観点から加害者が負う賠償金額を減額するというのが過失相殺という制度です。

2. 過失相殺には基準本があります

基準本の発刊
交通事故は、大量に発生しています。これを迅速且つ公正に処理を行なう必要性から、基準本が発刊されています。「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準平成26年全訂5版」(東京地裁民事第27部(交通部)編、別冊判例タイムズ第38号)、「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(2014年版)」(通称「赤本」)(日弁連交通事故相談センター東京支部)、「交通事故損害額算定基準(2014年版)」(日弁連交通事故相談センター)です。
これらの本では、当事者の属性、事故類型、事故の場所で細かく類型化・基準化がなされており、保険会社の示談の提示、弁護士による斡旋、調停や訴訟の場面で非常に多くの場で用いられています。
基準本の構成

ここでは、「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準 平成26年全訂5版」(東京地裁民事第27部(交通部)編、別冊判例タイムズ第38号)(以下「判タ」といいます。)で説明します。
判タは、事故当事者と事故類型、事故場所と事故類型で整理されていて、当該事故に適用される図を決めることになります。
前者は、事故当事者として、

  • 歩行者と四輪車・単車の事故
  • 歩行者と自転車の事故
  • 四輪車同士の事故
  • 単車と四輪車の事故
  • 自転車と四輪車・単車

との事故の5パターンを挙げ、各パターン毎に事故類型を示しています。
後者は事故の場所として、

  • 高速道路上の事故
  • 駐車場内の事故

を挙げ、それぞれ事故類型を示しています。
そして、適用される図が決まりますと、基本過失割合が決まりますので、後は修正要素を考えてゆくことになります。
この図により、かなりの事故パターンが網羅されていて一見、過失相殺が問題になることは減ったように思われます。

3. 基準本の限界

しかし、基準本には以下の限界があります。
事故態様が争いになっている場合、例えば、交差点付近の歩行者の横断事例なのか、交差点から離れた横断事例なのかが争いになっているときは、どの図の適用するかが争いになっており、基準化がなされたといっても過失相殺は厳しく裁判等で争われます。
また、事故がどの図に該当するか、極めて微妙な場合もあります。
例えば、交差点なのか、直進道路に脇道が交差しているだけなのかといった例です。
単純に図だけで決められない、図の意味を問い直さなければいけないということです。
また、図が用意されていない場合(例えば五差路等)も当然あります。
さらに、各図には修正要素と被害者、加害者側にそれぞれ著しい過失、重過失という要素が用意されていることが多いです。
それぞれの修正要素が適用になるか、著しい過失、重過失か、事実認定や評価の問題が残されています。
よって、弁護士の業務では、基準本があっても、過失相殺は大きな問題となっていて、各弁護士の力量が試される分野です。

4. 弁護士に必要なこと

事実関係の正確な把握
弁護士は、過失相殺を争うときは、刑事記録を入手したり、最低、実況見分調書を入手して、現場の把握に努めます。そして、場合によっては、被害者の方と一緒に現場に向かい、事故状況を再現する等して、当該事故類型の把握、修正要素について検討します。
このような努力をしてようやく事故状況を把握できます。
物理法則の当てはめ
ただ、事故状況は一瞬で起こり、多くは被害者に記憶がないことから、事故地点や衝突方向等で争いになることがよくあります。
当事務所では、事故分析の豊富な経験があります。事故の客観的な痕跡である、自動車の損傷痕状況、破損物の落下状況、被害者の転倒方向、スリップ痕等から事故状況を再現してゆきます。
各図に対する認識を深める
当事務所の代表岡崎秀也は、「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(2014年版)」(通称「赤本」)(日弁連交通事故相談センター東京支部)の作成に関与しており、その類型化の意味を熟知している訳ですが、この類型化の悪弊が横行しています。
加害者保険会社に特にこの傾向があり、被害者側でも類型化、基準化の意味を考えたことがないので、加害者保険会社に適用図を指摘され、容易に押し切られている場合が多数あると思われます。そこで、各図の基礎になっている過失相殺における被害者の過失の意味について、しっかり考えておく必要があります。
過失相殺における被害者の過失の意味
数例を挙げておきます。
例えば、歩行者が赤信号で横断し、青信号に従って進行した車両に轢かれて死亡したとします。
この例では、判例では、死亡の損害賠償請求に対して30%の過失相殺がされることになります(一応修正要素は無視します)。この事例で、車両の運転者から車両の損傷の30%を死亡被害者側で負担しろといわれることがあります。しかし、これは全く誤りです。歩行者が過失相殺を問われるのは、自己の財産、身体の安全について注意(「落ち度」といいます)を怠ったからです。赤信号を守らなければ自分が怪我をするということです。他人の財産、身体の安全についての注意義務(これが、不法行為の成立要件としての「過失」です)の違反はないのです。歩行者には、不法行為の成立要件としての「過失」はないですが、落ち度があって事故を発生させたので、30%の過失相殺がなされることになるのです。
次によく聞かれるのは、四輪車同士の事故で、例えば、前方直進車が、後続車の前に突然車線変更をしたとします。後続車は減速したが間に合わず、事故となったとします。この場合、過失相殺は基準本によりますと前方車70%、後方車30%となります(一応修正要素は無視します)。
この結論について、後続車の運転者から、自分は事故を回避できなかった、どうして30%も過失相殺されるのか、という質問がよくあります。
この場合、裁判で事故が回避不可能であったとして30%の過失相殺が否定されることは勿論あります。しかし、30%の過失相殺のままということもあります。これは、そもそも車両というのは、極めて危険でもし事故が起こったら人も殺しかねない高速な重量物です。よって、万一事故となると、2つの車両の危険性、エネルギーがあいまって大きな損害をそれぞれに残すことになります。そこで、後続車の運転手には、「事故発生」についての過失は認められないとしても、車両が動いていただけで、「損害拡大」についての過失があったと評価されてしまうことが、価値観としてあり得るということです。
よく、車両が動いていれば過失相殺が0%になることはないと言われますが、この意味です。
また、青信号での直進車と対向車線からの右折四輪車が衝突した事故です。直進車が四輪車であれば20%、二輪車であれば15%、自転車であれば10%の過失相殺とされます。これは交通弱者の保護が現れているのですが、この前提には、四輪車の危険が顕在化し、二輪車や自転車が被害者になって、大きな損害を被るからとの理解があります。
このような理解のもとに各図が作られていますので、図の当てはめを考える場合、各図に対するこういった理解が不可欠です。


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